失われつつある地域の知恵・技術・文化を守る(新潟県上越市)NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部|地域活性化100

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失われつつある地域の知恵・技術・文化を守る
NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部
新潟県上越市

新潟県上越市の地域の概要

新潟県上越市の桑取地区は、上越市市街地から15kmほどの地区で、桑取川に沿った谷間に約20の集落が点在している。
地域内の人口は1,771人、約500世帯(上越市・平成20年)。かつては養蚕も盛んであったが、現在は兼業農業が中心で
若い世代は上越市街地に通勤する人が多い。昭和30年ころから過疎高齢化が進み、耕作放棄地や空き家が多く目につくよ
うになったが、一方でこの地域には昔ながらの生活や文化が色濃く残っており、今も様々な祭りや行事が行われている。近
年では人口減少等により、そうした地域の伝統文化や生活の技能なども消滅の危機にあった。

取り組みの概要:失われつつある地域の知恵・技術・文化を守る

近年、地域の過疎化と高齢化に伴い、農地・山林・集落などの荒廃のみならず、里山の暮らしを長年にわたって支えてきた、
知恵・技術・文化なども消滅しつつあることが課題となっていた。NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部(以降、かみえ
ちご)は平成13年に設立され、上越市西部の中山間地域(桑取地区、谷浜地区、正善寺地区、中ノ俣地区など)で活動を行っ
ている。かみえちごは、これまで長い時間をかけ、地域内で継承されてきた山里の伝統生活技術や自然、景観を守ることで、
豊かな地域文化を守り、育むことを目的に活動をしている。かみえちごでは、地域内にある村落の集合体を「クニ」と定義
して、地域の人の生活自給力を基盤に、その上に成り立つ自立的な地域の構築を目指している。主に地域の自然や生活の営
み、生活技能等を活用し、外部の人と住民との交流によって、地域を維持するための様々な取り組みを行っており、今では
年間約2万人が訪れるまでになっている。
活動内容は、市施設等の運営管理を担う受託事業と、自主事業である地域資源を活用した「まかない塾」や「棚田学校」「古
民家再生事業」などを行っている。活動を支えているのは8名(7人が県外出身者のUIターン)の専属スタッフで、会員
数は個人会員317名、企業団体会員15(平成23年時点)となっている。平成21年時点の収入規模は約3,800万円で多
くは受託事業である。
活動のきっかけとなったのは、平成13年に現在のかみえちご山里ファン倶楽部の基盤となったNPO法人「木と遊ぶ研
究所」が行った桑取地区の伝統生活技術に関する調査であった。この調査では、桑取地域内の600世帯に対し、茅場の手
入れや薪作り等の地域の暮らしを支えてきた生活技能の保持者についてのアンケートを行い、それらの技能が今後どの程度
継続できるかを調査した。その結果、ほとんどの技能が10年から25年で消滅の危機にあることがわかり、これに危機感
を持った「木と遊ぶ研究所」のメンバーに行政、地域住民ら約80名、地域の代表者らが加わって立ち上がったのが、NPO
法人「かみえちご山里ファン倶楽部」である。
かみえちごが行っている活動のうち、「受託事業」では、上越市の施設である森林体験施設「くわどり市民の森」の運営
管理を行っている。かつては稲作や炭焼きが行われた集落の生業の場であった森林には、今も田畑や炭焼き窯の跡が残って
おり、地元ボランティアらと協力をして、地域の伝統文化や自然環境を伝える拠点としている。市民の森を舞台に、自然観
察会や下草刈りなどの里山保全活動、間伐作業などの林業作業、炭出し体験などを行い、環境学習の場を提供しており、市
内の小学生のなど多くの子供が訪れる。
もう一つは、同じく上越市の施設である環境学習施設「地球環境学校」の運営管理である。ここは、廃校となった小学校
校舎を上越市が環境教育の拠点として活用している施設である。この旧小学校周辺には、森林などの自然環境や、棚田、炭
焼き小屋、牧場などがあり、長い間守られてきた地域の暮らしを今に伝える「資源」が多くある。これらの「資源」を活用し、
学習旅行等で訪れる小学生らに集落の暮らしや技能体験や自然体験などの100種類以上の体験プログラムを提供している。
子供達に伝統技術や芸能を教えるのは、様々な技能を持つ地域住民である。稲作体験、わら細工、炭焼きなどの地域の生活
を支えてきた技能を実体験として学ぶことができる。子供にとって貴重な経験になることに加え、時代とともに消えつつあ
る技能を伝承することにもつながっている。
次に、かみえちごの自主事業である「地域資源事業」では、地域に
残る自然や伝統技術、知恵という資源を活かして、都市部の住民な
ど、地域外の人に対して里山生活体験や農業体験の機会を提供するこ
とで、地域が外とのつながりによって発展していくことを目指した活
動を行っている。
活動は、子供向けの日帰りや一泊程度の自然体験・田舎生活体験等
から、大人達や家族連れが通年で何度も集落に通って稲作を行う「棚
田学校」や、長い年月をかけて集落内の空き家を改修する「ことこと
村作り学校」のような、単なる体験からさらにもう一歩、地域に入り
込んで行う高度なコースもある。「棚田学校」は、農家の高齢化等によっ
て耕作がされなくなった棚田をかみえちごが借り受け、稲作を行いた
いという会員に提供している。単なる一時的な体験ではなく、毎週で
も田んぼに通い、苗作りから田植え、草取り、稲刈りなど一連の稲作
を現場で実践しながら学ぶものである。最初は、棚田の作業を手伝い
ながら稲作を学ぶところから始まるが、2年目以降からは棚田一つの
「オーナー」となって自分だけで稲作をする人もいる。中には、新た
に地域内の休耕田を個人で借り受けて稲作を始めた人もいる。地域内
で増加し続けている休耕田対策にも役立っている。
「ことこと村作り学校」では桑取地区の横谷集落にある築150年の
古民家を、地元職人の技術指導を受けながら改修プログラムであり、
定期的にイベントを開催して、材料の切り出しから大工仕事までを実
作業の中で学んでいる。改修された古民家の中には、すでにカフェ・
レストランとして利用されているものもある。もともと養蚕を行っ
ていた名残のある築170年の民家を、地元の大工や左官職人に加え、
有志メンバーらが参加して改修工事を進め、約10年の年月をかけて
完成したという。現在では、空き家であった気配を感じさせないほど
に綺麗になっており、元々の力強く立派な梁や柱が生かされた空間が
作られている。今後も幾つかの空き家を改装して活用する取り組みが
予定されている。
また、地域外との連携による活動のほか、地域住民が中心となって
行う民族行事や伝統芸能などの保存・継承にも力を入れており、かみ
えちごの手によっていくつかの途絶えてしまっていた祭りや行事が復
活した。一例としては、30年以上途絶えてしまっていた「馬」とい
う奇祭(小正月の行事で若者が各家を回り、家の中で飛び跳ねること
で家の幸せを願うもの)や、かつての集落の結婚式を再現した「里の
結婚式」などがある。人口減少に悩む地域であっても、都市部の住民
などの外部と「つながる」ことで、経済的にも社会的にも集落を維持
していくことが可能になる。また、地域内においても、集落と集落を
つなげることができれば新しい展開が生まれる。「かみえちご山里ファ
ン倶楽部」はこうした地域内外の様々なものを「つなぐ」という重要
な役割を担うことの可能性を示してくれている。

インタビュー:関原剛氏(専務理事/NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部)

NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部
専務理事
関原剛氏