行政に頼らない「感動の」地域づくり(鹿児島県鹿屋市)やねだん(柳谷自治公民館)|地域活性化100

地域活性化の先進的取組事例>地域をまもる>住民自らコミュニティーをつくる
行政に頼らない「感動の」地域づくり
やねだん(柳谷自治公民館)
鹿児島県鹿屋市

鹿児島県鹿屋市の地域の概要

柳谷(やなぎたに)集落は、鹿児島県鹿屋市串良町上小原(旧串良町)にある集落で平成26年時点では約130戸、約
300人が居住する農村集落である。20年ほど前から徐々に高齢化(高齢化率34%程度)と人口減少が進み、当時の試算で
は10年後には人口が半減すると予測されていた。もともと、この地域では農畜産業が盛んで、サツマイモや落花生、米等
が広く作られていたが、人口減少に伴って休耕地の増加が問題となっていた。柳谷集落では約20年前から休耕地を利用し
て「サツマイモ(地元ではカライモ)」を栽培。それを利用した焼酎などの加工品を製造・販売し、集落独自の財源を築い
たことで地域活性化の事例として全国的に注目されるようになった。

取り組みの概要:行政に頼らない「感動の」地域づくり

柳谷自治公民館(通称:やねだん)の取り組みのきっかけは、平成8年、豊重氏が公民館自治館長(自治会長)になっ
たことだった。それまで、柳谷集落では75歳未満の世帯は9,000円(公民館費7,000円と負担金2,000円)、75歳以上の
世帯は負担金2,000円を徴収して自治会の運営を行っていたが、集められた自治会費の多くが地域のお祭りやイベント等の
飲食代などに消えてしまっており、自治会としての貯蓄はゼロに近かった。そうした状況を受け、自ら稼いで、集落をより
良くするための「自主財源」賄うことを目指す活動が始まった。平成9年、自主財源確保のために始めたのが、集落内の
休耕地を借りたカライモ(さつまいも)生産だった。農作業の報酬を支払うことはできず、当初は集落住民の協力を得るの
も困難であった。しかし、集落内の高校生たちと「収益で東京ドームへイチローを見に行こう」という目標を掲げ、高校生
から高齢者たちに働きかけていったことで、徐々に住民の協力を得られるようになった。このカライモ生産は徐々に収益を
生むようになり、平成13年には耕地面積を約3,000坪に拡大し、収益金85万円を生むまでになったが、あくまでも住民
のボランティアによる農作業に支えられたものだった。
平成14年からは「土着菌製造事業」がはじまる。当時、集落内には31軒の畜産農家があり、家畜の糞尿の悪臭が集落
の問題となっていた。そこで、約2年間をかけて集落内で研究会を開催し、土着菌(山林や、田畑に生息する微生物)に着
目した。この土着菌を混ぜた餌を家畜に与えることで糞尿の悪臭が除去され、集落の課題が解決された。さらにこの土着菌
を畑に使用することで、作物の育成促進につながることもわかり、集落内の畑で土着菌を使用した農業がはじまった。さら
に、集落内に土着菌の培養と製品化を行う「土着菌センター」を建設し、土着菌販売を開始した。平成15年には土着菌を
利用して作ったカライモにさらなる付加価値をつけるため、地元の焼酎製造会社との協力によって、柳谷集落オリジナル焼
酎「やねだん」を開発。この焼酎の誕生によって集落の収益は増加した。
カライモ生産、土着菌製造、焼酎「やねだん」の販売等によって、集落の財源が確保されるようになると、それらを活用
して、集落内の施設整備や生活サービス、福祉等の充実を図った。例えば、集落内の空き地に住民たちの手作りによる「わ
くわく運動遊園(遊具やグランドを完備)」を住民の金銭的負担なしで建設して、集落の交流の場を整備。他にも、集落内
の高齢者の住宅に介護用緊急通報装置を設置、すべての住宅に警報装置(煙探知機)の設置などが行われた。そのほかにも、
集落内の有線放送を利用した独自の放送の開始、集落による手打ち蕎麦店、朝市等のイベント開催などアイデアと独自性に
富んだ様々な取り組みが多く行われるようになり、集落の物質的な豊かさに加えて、より良い地域コミュニティの形成など、
精神的な豊かさも増した。
自主財源確保を目指しての活動開始から10年後。自主事業による収益増加によって余剰金は400万円が超えたため、集
落の全110世帯に「ボーナス」現金1万円が「還元」された。このことは「ボーナスが出る集落」として多くのマスコミ
から注目を集め、「やねだん」を一躍有名にした出来事であった。他にもすべての高齢者にシルバーカーを配布、公園に健
康器具を設置するなど、様々な形で住民への還元を行った。自主財源確保が軌道に乗り始めた平成19年からは、集落の人
口増加を目指しての活動も始まった。集落内の空き家を「迎賓館」と名付けて集落の財源を利用して改装し、インターネッ
トを通じて移住者を募集した。特に集落の文化向上を目指した芸術家の移住に力を入れた。芸術家も誰も良いというのでは
なく、地域に馴染むことができる人間性を持っているか等を厳しく審査した。結果、全国から7人の芸術家が移住した。
その後も、UIターン者が生まれて集落
人口は16名ほど増加し、活動開始の平成
8年当時には半減すると予想していた10
年後の人口予測だったが、結果として増加
に転じた。平成21年にはやねだんの取り
組みに注目した韓国の実業家が、焼酎「や
ねだん」を扱う居酒屋「やねだん」を韓国
国内にオープンした。焼酎の輸出だけでな
く、集落内で生産した唐辛子を輸出するな
どの活動も行うまでになった。現在は集落
内に「事業部(製品企画・販売等)」「畜産
部(土着菌事業の推進)」「文化部(アート
イベント等の企画運営)」「婦人部・壮年部」
「青少年育成部」「高齢者部」等を組織し、
さらなる活動の展開を目指す。
近年、特に力を入れるのが、やねだんの
経験を全国の地域づくりに取り組む人や、
自治体の職員等に広め、地域づくりリー
ダーを養成する「やねだん故郷創世塾」だ。
平成19年から毎年2回行われてきたこの
「塾」には全国から自治体職員らが参加し
ており、空き家を改装した「宿舎」で寝食
をともにしながら、やねだんの豊重氏をは
じめとして各分野の専門家から地域振興策
や意識の持ち方の講義を受けている。これ
までの塾生は述べ500人を超える。他に
も毎日のように全国からの視察が訪れてお
り、その数は年間5,000人を超える。今、
やねだんから発信される地域づくりの為の
強いメッセージが全国に波及しつつある。

インタビュー:豊重哲郎氏(「やねだん」柳谷自治公民館長)「人の心を動かす。」

人の心を動かす。
豊重哲郎氏
「やねだん」柳谷自治公民館長
人口の減少が続く地域で一番難しいのは人集めである。豊重氏は自らが情熱的に活動して先導をすることに加え、様々な
方法で人々の心を動かして「やねだん」を作ってきた。当初、住民の一部は必ずしも豊重氏の活動に協力的ではなかった。
そこで豊重氏は、高校生たちと一緒に「収益が出たら東京ドームで野球観戦にいく」という「明確で夢のある目標」を持っ
て動き始めた。そして、なかなか協力をしない地域住民に、高校生から「一緒にやろう」と呼びかけた。すると、孫の世代
の頑張りに心を動かされた住民たちが協力をするようになった。
また、余剰金が発生して住民にボーナスを還元する際には、何よりも先に、やねだんの取り組みを一緒に行い、先に他界
していた方の家を一軒一軒周って、仏前に「ボーナス袋」を供えた。その姿にその家の住民は涙したという。
集落内には小さな小屋を回収した「こどもシニア館」がある。そこには壁一面に集落のこれまでの取り組みの記録写真や、
住民の何気ない日常の写真が飾られており、集落を支えてきた多くの人々の想いに触れることができる。豊重氏はここを訪
れる度に「先人に感謝し、集落活性化への決意を新たにする」という。今では地域活性化の好事例として全国から注目をさ
れるやねだんであるが、それは決して特別なものではなく、「人の心を動かす小さな取り組み」の積み重ねであった。