みんなが行きたい「未来の方向性」を示す(島根県海士町)株式会社巡の環|地域活性化100

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みんなが行きたい「未来の方向性」を示す
株式会社巡の環
島根県海士町

島根県海士町の地域の概要

島根半島沖合約60Kmにある隠岐諸島のうち中ノ島にある。1島1町の小さな島。対馬暖流の流れる豊かな海
と、豊富な湧水に恵まれた自給自足のできる半農半漁の島。人口の流出と財政危機の中で、2005年に町長は給与
の50%カット、課長級は30%カットを断行した。その資金を元手に最新のCAS冷凍技術を導入し海産物(イカ、
岩牡蠣等)のブランド化を行うなどしている。こうした産業振興等や島外との積極的な交流により2004年から
13年までの10年間で400人以上の移住者(Iターン)、200人以上のUターンを生み、島の人口の20%を移住
者が占めるまでになっている。地域活性化モデルとして全国から注目されている。

取り組みの概要:みんなが行きたい「未来の方向性」を示す

「持続可能な未来に向けて行動する人づくり」をテーマに掲げ、2008年に海士町にIターンした阿部氏はじめ3
名で立ち上げた株式会社。主に「地域づくり事業」「教育事業」「メディア事業」の三つの事業を行っている。
「地域づくり」事業では「地域に根ざす」ことを目的とし、海士町役場や、地域コミュニティーと恊働して、地
域づくりや地域イベントの運営等を行っている。都市農村交流を目的とした「AMAワゴン」(2006年〜2009年)
では、「学校における出前授業」「地域密着型交流」の2つを実施してきた。都市の若者を海士町に迎え、島前高
等学校や海士中学校で参加者が講師となって授業をする「出前授業」を通して、島の子どもたちに広い視野・世界
観を持たせることや、農業体験や郷土料理づくりなど島ならではの体験を通して「海士ファン」を増やすことを
してきた。
「教育事業」では、島そのものを学びの場として、地域コーディネーターを養成する「めぐりカレッジ」や、人
間力を高める企業研修「海士五感塾」の展開等を行っている。
「メディア事業」では、「海士WEBデパート」を運営し、島の特産物をブランド化し、島外へ販売することや、
東京で海士の魅力を伝えるイベント「AMAカフェ」など、島の魅力を外に伝える取組みを行う。現在、3事業の
比率は「地域:教育:メディア(4:4:2)」、現在社員は8人がプロジェクト単位で動いている。
現在、巡の環の年間売上額は約4500万円。研修等で訪れる人の宿泊費や飲食代、地元のスタッフの雇用費など
の経済効果は約4000万円にのぼり、「外貨」獲得が重要である離島にとって島全体の産業にとって大きな成果を
生んでいる。また、現在では研修等の「教育事業」で島を訪れる人は年間300名以上にのぼり、巡の環が島外で行っ
ているイベントでは年間で4000名を超える人々に島の魅力を伝えている。このように島の内外に波及する人のつ
ながりの効果は大きい。また、阿部氏をはじめとした「巡の環」のメディア露出による海士町の宣伝効果は計り知
れない。

インタビュー:阿部裕志氏(株式会社巡の環代表取締役社長)「地方では「合わせ技一本!」のビジネスが必要」

地方では「合わせ技一本!」のビジネスが必要
阿部裕志氏
株式会社巡の環代表取締役社長
地方では「合わせ技一本!」のビジネスが必要
マーケットも、リソースも限られた地方部においてビジネスを成功させるためには、1事業で1つのビジネスに
するのではなく、複数の事業で連携して収益化する「合わせ技一本」が必要だと阿部氏は語る。
例えば、巡の環の事業を見ても、「教育事業」である海士五感塾では、島の農家が地元の「講師」として協力し
てくれている。その協力が得られる背景には、同じく巡の環が展開している「メディア事業」の「海士WEBデパー
ト」で普段から、農家が作った「あいがもこしひかり」を全量買い取りして、WEBを通して販売しているという
関係があるからである。
「リソースも限られている田舎では、単一の事業だけでは成り立たない。一本の大きな幹にいくつもの枝を差し込
で成長させるように、足し算ではなく、小さなビジネスをのかけ算をしていくことが大切」と語る。
地域の「うち」と「そと」のバランス
阿部氏が海士町に移住して、まず行ったのは「島の外に出ない」「外を見ない」「メディアに出ない」ということだっ
た。移住してきた「よそ者」が島の何かを変えることは簡単ではないと、最初の約2年間は島のことを「知ること」
に徹した。離島に移住した若者が会社を作ったというのは注目もされ、取材の申し込みもあったが、最初の2年
間は取材も受けなかった。その背景には「海士町についてまだ知らない自分が、メディアで海士町を語ることはで
きない」という考えがあったからだ。
一方で、島内でイベントがあれば顔を出し、飲み会も最後まで同席し、島の人の話を「聞く」事に徹した。こう
して、阿部氏は最初の2年間をかけて徹底して「島になじむ」ことをした。そうしているうちに、1年が経ったあ
たりから周囲から「何か言いたい事があるんだろう」とか「阿部ちゃんについていくからな」と言ってくれる人が
現れ、少しずつ信頼関係を築けてきたと感じたという。すっかり海士町住民になった今も、地域の「内」と「外」
との「バランス」には常に気を配っているという。
「田舎ベンチャー」であること
巡の環は海士町に拠点を置く「ベンチャー企業」に見えるが、阿部氏は巡の環を「田舎ベンチャー」だという。
巡の環はあくまでも、地域に寄り添うことを最も大事にしている。地域に寄り添いながら、企業として持続するた
めに走るためにちょうど良いスピードがあり、それが「頭は三歩先を、体は半歩先を」をゆくことだそうだ。都会
のベンチャーのようにとにかく速く走る事だけを求めていれば「地域を置いてけぼり」にしてしまうといった事態
を招きかねない。地域に支えられてこそ自分たちがあるのに、そうした大切なことを忘れては地域の中で孤立をし
てしまうことになる。地方でビジネスをするというのは、そういったバランス感覚が非常に大切だという。それが、
「田舎ベンチャー」なのだそうだ。