出生率1.86人。若者が増える村。(長野県下條村)下條村|地域活性化100

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出生率1.86人。若者が増える村。
下條村
長野県下條村

長野県下條村の地域の概要

長野県南端の下伊那郡にあり飯田市からは車で約30分。村の総面積37.66㎢の約7割を山林が占めており宅地面積はわず
か3%ほどしかない。かつては養蚕で盛んで、ピーク時の昭和30年代には約6,500人だった人口は、昭和50年代の養蚕の
衰退と共に減少。平成26年時点の人口は約4,024人。村の主産業は農業だが、農地は限られており果樹や蕎麦を小規模に
生産している。村民の半数近くは第二次・三次産業に従事しているが、村内に大企業や事業所等がないために、近隣の飯田
市などへ通勤している。村の税収源はほとんどなく財政力指数0.218(平成23年度)である。
こうした条件だけを見れば、下條村は典型的な中山間地域の零細自治体である。しかし、長年に亘る財政改革に取り組み
によって数々の成果を生み「奇跡の村」とさえ呼ばれている。多くの自治体が若年層の人口減少に悩む中、下條村の人口は
平成2年には3,859人と減少したが持ち直し、平成26年には4,000人を超えた。20〜30代女性人口変化率は−70%の自
治体もある中で下條村は−8.6%に止まり、合計特殊出生率は1.86人(平成20年〜24年の村試算。平成19年の全国平均
は1.34人)と全国を大きく上回るなど、子供を持つ若い世代が増えている。
また、財務の借入れと返済の比率を示す「実質公債費比率」は−5.4%で、全国第三位(1位は東京都杉並区−5.8%、2位は
東京都江戸川区−5.7%で、上位には住民の多い大都市の自治体が並ぶ)。村の経営状態を示す「経常収支比率」は過去6年
間を通して60%以上の数字を維持し、村の貯金残高にあたる基金残高は60億円となっており「黒字経営」が続いている。

取り組みの概要:出生率1.86人。若者が増える村。

下條村が「奇跡の村」とまで呼ばれるに至ったのは、町と住民が一丸となっての財政改革と若年層の移住政策による取り
組みによるものである。その発端は平成4年に村長となった伊藤喜平氏の「村民倍増計画」だった。
伊藤村長が平成4年の就任後にまず行ったのが村職員の意識改革だった。当時の全職員を民間のホームセンターで接客
や販売の研修を行わせ、サービス業としての意識改革を求めた。結果、職員の気持ちの変化、仕事に対するコスト意識、ス
ピードが生まれ役場全体の雰囲気に変わった。同時に職員数の削減を掲げ、新規雇用をせず自然に減らす方法で職員の削減
を行った。結果、現在では職員数は37人と約半分にまで減り、支出に対する人件費率も15.6%にまで抑えられている。
下條村の財政改革のひとつとして「補助金」「地方債」「交付税」に頼りすぎず、身の丈に合ったインフラ整備を行ったこ
とにある。村の財政改革の発端は平成3年に始まった下水道整備事業だった。当時、国や県は公共下水整備を積極的に推
進し、多くの自治体が手厚い補助金等の優遇策に飛びついて公共下水整備をした。下條村における公共下水整備には約45
億円が必要と試算され、他自治体同様に補助金等を受けて村内全域に公共下水道の整備を行うことも可能であったが、下條
村の判断は冷静であった。集落が山間部に散在する下條村は下水敷設の効率が悪く、さらに敷設後の維持費も高額になるこ
とが見込まれた。補助金等によって敷設時の支出は抑えられたとしても、その後、長期にわたる地方債償還や処理施設の維
持管理に年間約1億7,000万円が必要になることがわかった。対して、公共下水道の敷設ではなく、全戸に合併処理浄化
槽を設置することで総事業費は約6億3,000万円(村負担金2億2,000万円)に抑えられ、単年度処理できることがわかっ
た。結果、下條村は合併浄化槽整備を行うことを決めた。合併浄化槽では、各世帯に負担金と管理責任(維持管理等)が生
じるため、村は独自の補助制度を新設して支援した。合併浄化槽導入の判断は功を奏し、平成25年までで949基が設置さ
れ、総事業費は8億8,379万円と公共下水道整備よりもはるかに安く抑えることができた。国の施策を安易には採用せず、
村の状況に見合った事業展開を自ら考えた結果によるものだった。
下條村の財政改革に大きな効果を上げているのが「資材支給事業」である。この事業は地域住民の生活環境を整備するた
めに行政が行ってきた道路整備等を住民自らが施工し、村がその資材を支給する制度である。主な内容として村道整備(受
益者3名以上の道の舗装、側溝敷設等)、農道整備、水路整備等がある。事業費として年間1,000万円が計上されており、
平成4年から平成25年で総額2億9,000万円が使われ
1,565箇所が住民の手によって整備された。それまでは住
民から役所に対して一方的に陳情をするだけであったが、
住民自らが動くことで村の公共事業費の大幅な削減に成
功。なお、住民が行う工事は小規模なものに限られており、
地元土木会社の事業との住み分けは出来ている。こうした、
住民たちの共同作業は地域コミュニティーの活性化という
効果も生んでいる。
財政改革によって捻出された財源によって、近年では人
口減少・少子高齢化施策を積極的に推進している。
平成9年から移住者受け入れのための分譲宅地や集合住
宅(※家賃は2LDK月額3万3,000円。飯田市内の同規模
物件家賃の半額程度)の建設を開始。若年層向けの集合住
宅建設に関しては、国の補助金をあえて使わずに単独事業
として実施することで「条件付」での入居者募集を実施し
た。その条件とは、子持ちの若年世帯か結婚予定者である
こと、さらには入居後の村行事参加や消防団への加入であ
る。こうした「条件付きの移住者募集」によって「質の良
い若者」を受け入れることに成功し、村民と移住者が一体
となった地域コミュニティーを生み、村民も移住者を歓迎
するという好循環が生まれた。
さらには、「子供医療費無料化(高校卒業まで)」、保育
料引き下げ(国基準の半分以下)、給食費の補助(小中学
校で50%)、子育て応援基金(7億円の基金により子育て
世代の支援)創設、入学祝い金、出産祝い金等、子育て環
境を整備した。
現在、若者定住促進住宅は124戸に達し若い夫婦の入
居待ちもある。世帯数は最低だった平成2年から300世
帯が増加。特に若年層の増加は著しく14歳以下の人口は
622人で、総人口の15パーセントを超える。村内の小学
校も生徒数は274人(平成26年5月時点。一時、10学
級にまで減少したが現在は12学級)、保育園が109人、
中学校137人にまで回復している。こうした取り組みに
よって、平成20年〜24年の村試算による合計特殊出生
率は「1.86人」(平成19年全国平均は1.34人)と全国
を大きく上回る。
全国の自治体からの視察希望が多い為、6~7年前から
は行政規模の大きく違う市の視察は断っている。また、仕
事に差し支えないように週1回の受け入れにしている。各
種の施策を実現した意識の高い村職員、それに総力を挙げ
て協力した住民たちの力を引き出したのは、村長のリーダ
シップによるものが大きい。

インタビュー:堀尾伸夫氏(総務課長/下條村役場)

下條村役場
総務課長
堀尾伸夫氏