地域交通は地域の「血のめぐり」地域交通が町を救う(福岡県北九州市(八幡東区枝光地区))株式会社光タクシー|地域活性化100

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地域交通は地域の「血のめぐり」地域交通が町を救う
株式会社光タクシー
福岡県北九州市(八幡東区枝光地区)

福岡県北九州市(八幡東区枝光地区)の地域の概要

北九州市八幡地区は、八幡製鉄所にはじまる新日鐵(現在の新日鉄住金)があり製鉄業で栄えた地域であり、最
盛期には3万人が働いていた。しかし、20年前の新日鉄本事務所が撤退をすると従業員数は約2,500人にまで減
少し、町も一気に衰退した。かつて、新日鐵に通うサラリーマンをはじめ若い勤労世代で賑わっていた枝光地区も
今では高齢化率が30%を超えた。かつて地域の台所として賑わった枝光本町商店街も風前の灯となっていた。八
幡市区のある北九州市八幡東区の人口は約71,000人(平成25年)※枝光地区の人口は約17,000人で老年人口率
は約33%。

取り組みの概要:地域交通は地域の「血のめぐり」地域交通が町を救う

官営八幡製鉄所から、現在の新日鉄住友株式会に至るま
で、古くから製鉄の町として栄えた北九州市・枝光地区。
この「元」企業城下町には最盛期で30,000万人を超える
労働者とその家族が暮らしていたが、現在は東西800メー
トル、南北2キロ程の地区に約17,000人が暮らしている。
平地の大部分は工場として利用されていた為、彼らの多く
は丘陵地に住居がある。製鉄工場の撤退後、多くの労働者
が定年退職を迎え、工場の移転によって産業が失われて人
口は減少し、働き口を求めて子供たちが街を出て行く中で
丘陵地には「足」を持たない高齢者だけが取り残される結
果となった。しかし、この地域は急で入り組んだ坂道が入
り組んだ住宅地であり、大型バスの導入等は難しく、この
地区の高齢者の買い物や通院の「足」の確保は行政にとっ
ても難しい課題であった。同時に、この街の台所として、
かつては「人の頭で前が見えない程であった」といわれた
程の繁栄した「枝光本町商店街」は工場の撤退に伴う人口
の減少と、近隣に出来た大型ショッピングモールの影響を
受け、多くの店舗が閉店に追い込まれていた。
平成12年、そうした状況を受けて北九州市は「高齢者
の積極的な外出をはかることで健康維持を目指す」ことを
目的に「おでかけ交通」の試験運行予算で9人乗りのワ
ゴン車2台を購入。「枝光やまさか乗合ジャンボタクシー
運行推進委員会(北九州市、地元自治会、商店街、地元交
通事業者「株式会社光タクシー」)を発足し、乗合ジャン
ボタクシーの運行を開始した。この乗合タクシーは枝光本
町の商店街を起点にして丘陵地の住宅地を周る5ルート(1
周15〜20分程度)があり、1日計62本を運行する。
年間では10万人以上が利用している。一回の利用料は
150円で停留所は利用者の多くが高齢者であることを考慮
し、約100メートルごとに設けられている。
地元自治会や商店街も運営協力金を拠出、北九州市も5
年に一度の車両更新時に上限300万円の補助を行うなど
しているほか、利用者からの「値上げをしてでも続けて欲
しい」という声を受けて運賃を100円から150円に値上
げするなど、自治体から住民まで一体となって自分たちの
「足」を支えている。

インタビュー:石橋孝三氏(株式会社光タクシー代表取締役社長)「地域交通は地域の「血のめぐり」」

地域交通は地域の「血のめぐり」
石橋孝三氏
株式会社光タクシー代表取締役社長
この乗合ジャンボタクシーの運行開始により、丘陵地に
住む高齢者も商店街まで買い物に来ることが可能になり、
商店街は買い物をする高齢者でにぎわうようになった。一
時期は70軒程にまで減少していた店舗数(ピーク時は約
120軒あった)も、現在では80軒程度にまで回復するな
ど着実に変化が現れている。また、商店街の再起によって、
一度は街を出た「せがれ」たちが戻って店を継ぐなど、着
実に地域再生に向けての変化が起きている。
乗合タクシーを始めた当時、地域の経済も人口も、全てが確実に縮んでいくことがわかっていた。特に、この枝
光地区は製鉄工場稼働時にはピーク時3万人が働いていたが、今は2,500人になったこともあり、地域が縮んでい
くということを他地域よりも顕著に感じていた。
タクシーという商売は八百屋と魚屋と違って地域に客が居なくなれば移動をすることも可能だ。けれども、仮に
他地域に移動したとしても、行った先のライバルと争って疲弊してしまうのは目に見えていた。それでは、魚が干
上がっていく池の中で少しでも水のある場所に集まっていくようなものだ。大変でも、自分たちが居るところを少
しでも深く掘ってみて生き延びた方がいい。そう思ったそれが乗り合い交通を始めたきっかけだったと石橋氏。
地域にとって交通は「血の巡り」のようなもの。目的ではなくあくまで手段に過ぎない。けれども、人間の健康
にとって血流が大事なように、地域でも手段をきちんと整えれば、結果として町に商店街などを残すことができる
ということが、乗合タクシーをやる中でわかってきた。仮に、乗合タクシー事業をやらずに10年が経っていたと
したら、商店街のある街の風景は消滅していたと思う。そして、一度消えたらもう二度と取り戻すことは出来なかっ
たと思う。
高齢者が行き交う商店街の風景の中にこそ、「地域の生活の強さ」が現れていると石橋氏は言う。商店街は商業
地としての金銭的な規模や価値は小さいかもしれないが、数字だけでは見えてこないものがある。商店街では、そ
れぞれの商店主たちが「この地域のものは自分たちが売る」という気持ちでやっている。これは、行政主導で出来
ることではないし、外から来た大手資本に出来ることでもない。「地域に生きる人々の生活と一緒に続いていくこ
とが何よりも大切。同じように、地元の交通をやるのは、行政でもなく、地元の交通事業者がやるしかない」「地
域の人たちが、商店街があるといいなと感じてくれるようになるまでもうすぐだ」。地域の生活を乗せて「乗り合
いバス」は今日も急峻な住宅地の坂を力強く上っていく。