地域医療を守れ。地域住民による診療所。(群馬県東吾妻町)大戸診療所|地域活性化100

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地域医療を守れ。地域住民による診療所。
大戸診療所
群馬県東吾妻町

群馬県東吾妻町の地域の概要

群馬県東吾妻町人口約3000人の坂上地区。全国の中山間地域の例にもれず、少子高齢化が進み、人口減少が進
む地域に大戸診療所は立地している。地区には現在、ガソリンスタンドも商店もなく、また近年中学校が廃校となっ
た。建設が進む八ッ場ダムの完成にともない、新たな道路建設が進み、地域を通過する自動車の減少も危惧される。
地域住民自らが医療法人の立ち上げ、診療所の運営を行う全国でも稀な取り組みにより過疎地での地域医療が守ら
れ、今では医療介護だけでなく、生活や文化祭事の面でも診療所が地域を支えている。2014年度地域再生大賞・
準大賞を受賞した。

取り組みの概要:地域医療を守れ。地域住民による診療所。

1984年、地域唯一の医療機関であった国立療養所長寿園の廃止反対活動が地域で起こる。「無医地区にするわ
けにいかない」、「地域医療を守れ」という地域住民と医療労働者共同の活動により、特例で代替の診療所が整備さ
れることにはなったが、いつまで存続するか保証がない中、持続的な地域医療の存続への危機感と、それまでの7
年間の運動を形にしたいという決意から、全国でも例を見ない、地域住民による診療所立ち上げの運動へと転換す
ることになる。
▼地域住民による診療所の立ち上げ
自分たちの地域の医療を行政に頼るだけではなく、自分たちでも汗を流そうという気概の中で、地域住民による
医療法人を立ち上げ、診療所を設立した。設立資金は1.3億円。内5,000万円は地域住民25人からの出資、それ
に全国からの募金、地域住民を中心とした協力組織「友の会」の一人1~2万円のサポートで賄った。ノウハウ
もお金もなかったが、7年間に渡る反対運動の中で築いた全国の医療関係者との関わりと、厚労省や群馬県の担当
も反対運動の時からのやり取りで、最後には協力してもらえる関係を築いてきたことが、設立を実現できた要因で
あった。資金的に最もネックになる医者の人件費についても、取り組みに共感してくれる高齢のリタイア医師に協
力いただくことで、運営している。現在は、それに加え地域医療のメッカといえる長野佐久総合病院との連携によ
り医師を派遣してもらう仕組みを構築した。
▼多角的な事業展開
診療所は2014年で20年目を迎えた。診療所は高齢者から地域の子どもたちまでが利用し、こたつを置いた待
合に住民たちが集う。地域住民の9割がこの施設を利用する現状だが、地域の人口は減少し、診療所だけでは維
持できない状況の中で、多角的な事業展開を進めてきた。診療所に加えて、現在はデイケア施設も併設し、訪問介
護も実施している。そこでの雇用は当初の8人から現在46人に増えている。診療所までの無料送迎に加え、有償
運送事業で、地域外の拠点病院への送迎や、買い物支援も実施している。また、町の郵便局や宅急便事業者との連
携により、配達時の高齢者安否確認、気になることを診療所に報告してもらう取り組みもはじまった。2014年大
雪で集落孤立が発生した際には、薬や食料を届けるため、診療所職員と郵便局員で高齢者の家の雪かきに奔走した
こともある。また、診療所が主催する健康まつり花火大会は、地域を出た子ども達、孫たちが帰ってきて、地域の
賑わいを作り出している。地域の皆様が運営に協力してくれる。
▼地域活性化に向けた地域づくりの展開
地域住民が地域で暮らすために診療所が支えていると同時
に、診療所も地域住民に支えられているという構図がある。し
かし、地域の人口減少により、かつて1日60人だった患者数
が1日30人に減り、診療所の維持が課題になっている。地域
の人口を維持するための取り組み、外から人を呼び込むための
事業展開に向けて、取り組みがはじまっている。診療所を核に
活性化協議会を立ち上げ、石造文化財など地域の歴史資源の調
査、地域を訪れた方が寄っていけるように長寿地蔵(ぽっくり
地蔵と地域の人は呼ぶ)を置いた。今後、地区の入り口部にド
ラッグストアを整備する予定である。店舗には農産物の直売所
を併設し、お見舞いなどで地域を訪れる方の立ち寄り場所とな
ることを狙う。廃校になった中学校を高齢者施設として活用で
きないか、ガソリンスタンドを地域に復活させるなど、今後も
診療所を核とした地域の維持・活性化の取組みを展望している。

インタビュー:今野義雄氏(医療法人坂上健友会常務理事)「地域が支える診療所地域を支える診療所」

地域が支える診療所地域を支える診療所
今野義雄氏
医療法人坂上健友会常務理事
医療法人立ち上げ、診療所設立当初には、国立の診療所(特例での暫定的診療所)があるのに、そんな活動必要
ないという役場などの目があった。しかし、設立して2年程経つと、雰囲気は明らかに変わり、「地域医療を大戸
診療所が担って欲しい」、「大戸診療所はこの地域最大のよりどころだ」との激励を頂くようになった。大戸診療所
抜きにはこの地域は成り立たない。地域の方々の期待は大きく、地域を維持しなければならないという思いから、
最近は地域づくりという発想になってきた。行政も、民間の法人に対して財政的な直接援助はできないが、今後、
町の活性化という観点では一緒に事業展開したいと思っている。
20年間、毎日刺激的な日々であった。最初は3年~5年もてば良いと思われ、冷ややかに見ていた人もいたと思う。
そんな人たちが、診療所に人が集まるのを見て、これまでの経緯から、行きたいけど行けない状況もあった。そん
な状況を打開したのが診療所で開いた地域のお祭りである。ある時、祭りにお祝いを持ってきてくれ、「いろいろあっ
たけどこれからは頼む」と一言。地域の理解が広がった瞬間である。
今年の春に地域再生大賞、20年の歩みが評価されたと思うが、これからもっとがんばれという励みと受け止め
ている。もっともっと地域づくりに力を出したい。
20年の歩みの中で診療所、場合によっては地域が半分崩壊していたかもしれないとも思う。地域の現状の共通
認識を持とうと人口の推移、耕作地の減少、学校の減少などを資料で確認しあうことを4年前にはじめた。何と
かしなければという機運がなんとなく生まれている。危機感の共有をはかることが大事。
八ッ場ダムが着工し4年後には完成予定で交通の流れがまるっきり変わる。診療所の前を通る車もめっきり減
ると思う。そこでの仕掛けとして、ダムに向かう分岐点に、薬局と農産物などの直売所、公衆トイレをつくる。診
療所に来たお客さんが薬をもらいに行き、モノを買って帰る。できればガソリンスタンドも復活させたい。これら
経営の受け皿として、地域づくり懇談会を母体に、株式会社やNPOなど法人格を持った組織づくりを進めること
が今後の課題である。たまたま調剤薬局の社長が地域づくりに共鳴してくれたことで先が見えてきた。今度は地域
みんなが、その施設を支える仕組みをつくっていくことになる。様々な外部からの協力者がいて、ことが動いてい
くことを実感する。