広域の情報共有が地域医療を守る(和歌山県橋本市ほか)一般社団法人伊都医師会|地域活性化100

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広域の情報共有が地域医療を守る
一般社団法人伊都医師会
和歌山県橋本市ほか

和歌山県橋本市ほかの地域の概要

和歌山県北部の橋本市や伊都郡(九度山町、かつらぎ町、高野町※人口25,177人高齢化率は3町平均約
36%)では急速な過疎高齢化の進行と共に、医療を必要とする高齢者に対しての医師数の減少が続いた。また、
市町村合併等によって行政サービスの広域化・効率化が進められていく一方、通院や緊急時の対応を必要とする医
療は居住地域による区切りから切り離して効率化することができず、医療分野における広域連携は困難を極めてい
た。地域医療の衰退と、それが引き起こす更なる過疎化という悪循環から脱するための方策が求められていた。

取り組みの概要:広域の情報共有が地域医療を守る

平成14年、地域の医療を担ってきた地元医師会「一般社団法人伊都医師会」の有志数名は、地域医療機関が連
携して限られた医療資源を有効に活用すること、重複診療・検査を防止による効率化を目的として「地域医療情報
共有システムゆめ病院」を開始した。
この「ゆめ病院」はインターネットを使って、それまで各診療所単位で保持していた患者のカルテ情報(各種検
査結果・検査画像データ・所見・処方履歴情報等)を、地域内にある複数の医療機関に所属する医師、歯科医師、
訪問看護師、薬剤師等の多職種で共有することで、地域内における医療機関の連携を促進している。
このシステムに利用によって、受診する各医療機関での患者診断記録を共有することが可能になり、これまで問
題になっていた重複診療、重複検査や医療費負担増大等の患者の肉体的、精神的負荷の軽減にもつながっている。
同時に情報共有によって、必要以上の検査や診断を行う必要がなくなり、地域で多くの患者を抱える医師や看護師
等の負担の軽減にもなっている。
これまでにも「医療情報共有システム」はあったが、大規模病院が持つカルテ情報の提供を受けるという方法に
頼らざるを得ず莫大な費用を要した。そのため、一時的に補助金を利用して行うことができても継続することは難
しかった。「ゆめ病院」は地域の医師会が独自に資金を出し、地域密着で行っており、時間はかかるが着実に地域
に根付いた医療システムとして広がってきた点が大きな特徴である。
「ゆめ病院」には平成27年1月時点で約81,000人の患者情報(病名・既往歴、禁忌・アレルギー情報、予防接種歴、
治療内容、検体検査結果、画像診断情報等を患者の同意に基づいて記録)が登録されており、ゆめ病院に参加して
いる地域内のすべての医療機関から共通した患者情報をもとに診療を行うことが可能になっている。さらには、患
者への投薬・処方内容や、検査会社との連携による血液検査結果を自動登録する機能もあり、患者情報を手間なく
得ることができるため、医療従事者の負担軽減にもなっている。さらに「ゆめ病院」では、特定健診(メタボリッ
クシンドロームに着目し、病気を予防するための特定健康診査・特定保健指導)のデータを共有することが可能で、
健診の情報を診察に活用するとともに、患者への健康指導にも利用することができ、地域において予防医療などの
広い視野から診察することが可能となると期待される。これらのデータベースは匿名化されており、仮にセキュリ
ティが破られても患者が特定できない仕組みになっている。
今後、人口減少が加速する地域では、病院等の施設存続は益々厳しくなることが予想され、在宅医療の需要は増
加していく。「ゆめ病院」も在宅医療の推進に向けた展開を始めている。医師だけでなく、訪問看護師・薬剤師・
介護ヘルパー・歯科医師等の在宅医療関係者も、タブレット端末からも「ゆめ病院」を利用することが可能で、訪
問診療時にも個人宅等の現場から、患者情報の閲覧・更新が可能になっている。これにより、患者が安心して在宅
医療を受けられる環境づくりを実現。地域内の
すべての医療関係者の連携で、地域の医療を支
えていく仕組みとなっている。
伊都医師会はさらなる提供エリアの拡大を目
指している。平成23年からは隣接する奈良県
五條市の医師会が県境を越えて「ゆめ病院」シ
ステムに参加。行政区分を越えた「地域医療情
報共有システム」となった。将来的には日本全
域で医療情報が共有され、適切な医療がどこで
も受けられる仕組みの構築を目指す。
さらには、在宅介護・医療分野においても、
患者の体に装着して健康状態をモニターするこ
とができる「ウェアラブルセンサー」を使い、
在宅患者の状態を常にモニタリングをする。緊
急時には地域の医療関係に連絡が入るシステム
の構築を検討している。各地で少子高齢化、医
師不足、医療過疎等が問題となっている中、地
域内で医療関係者が連携することで、地域の医
療を支えることができるという事例である。

インタビュー:前田至規氏(一般社団法人伊都医師会会長)「地域住民の健康を守っていく情報共有の仕組み」

地域住民の健康を守っていく情報共有の仕組み
前田至規氏
一般社団法人伊都医師会会長
1市3町(橋本保健医療圏)で人口約10万人、医師会員160名で、医療と福祉の連携を深めて、高齢者や障が
い者が安心して暮らせる伊都地域の実現をめざして活動している「伊都医師会」より、前田氏がこれまでの経験か
ら大切なものを語ってくれた。
ゆめ病院の円滑な運用のためには「人的ネットワーク」の構築がカギだ。ICTシステムは補助的なものであり、
連携のすべてをICTシステムで完結させることは不可能である。こうした便利なシステムを以下に有効活用でき
るかは人的交流(教育、ミーティングや紙やFAXによる共有)の濃度こそ重要であり、それをベースにICTによ
る共有、その他の共有を生かすべきだ。そのため、ゆめ病院のようなシステムを運用するための人的ネットワーク
の連携体制構築も重要であると考える。
もし、他地域で同様のシステムを構築しようと考えるなら、コストのかかるICTシステムに関しては、最初は
必要最低限でスタートして、実運用を行った後にその地域にあったカスタマイズを行っていくことが望ましいと考
える。システム構築は汎用的にすることをおすすめする。
当地域は、職能団体である当医師会が「ゆめ病院」の構築、運用を行っているが、継続性を考えると運用面・費
用面で限界があるのは事実である。そこで、各自治体等にこのような情報基盤を活用した事業展開を企画、運営し
ていただくことにより、より公共性のある情報連携が可能となると考えている。現段階では、医療と介護にフォー
カスをあてているが、今後発展するであろう地域包括ケアシステム構想において、福祉や住居の要素を組み込むこ
とは不可欠であると考え、そのためにも国や自治体にもこうしたシステム構築に積極的に参加していただくことを
強く望む。また、こうした医療情報の共有システムをつくるためには、個人情報保護等のために高いレベルのセキュ
リティ担保が求められ、費用面でコストがかかる。そのための継続的な費用負担等もある。