「島留学」で島の高校を再生(島根県海士町)海士町・高校魅力化プロジェクト|地域活性化100

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「島留学」で島の高校を再生
海士町・高校魅力化プロジェクト
島根県海士町

島根県海士町の地域の概要

島根県隠岐郡海士町は、島根半島沖合約60Kmにある隠岐諸島のうち中ノ島にある。1島1町の小さな島。対
馬暖流の流れる豊かな海と、豊富な湧水に恵まれた自給自足のできる半農半漁の島。人口の流出と財政危機の中で、
2005年に町長は給与の50%カット、課長級は30%カットを断行した。その資金を元手に最新のCAS冷凍技術を
導入し海産物(イカ、岩牡蠣等)のブランド化を行ったり、こうした産業振興等や島外との積極的な交流により
2004年から11年までの8年間で310人の移住者(Iターン)、173人のUターンを生むまでになっている。地域
活性化モデルとして全国から注目されている。

取り組みの概要:「島留学」で島の高校を再生

島根県立島前高等学校(昭和30年3月創立)は隠岐諸島の海士町、西ノ島町、知夫村の2町1村に一つしかな
い県立高校。生徒数は平成元年には6クラス242人(教職員数26人)だったが、平成20年には3クラス89人(教
職員数16人)にまで激減、高校自体の存続が危ぶまれるようになる。
そうした中にあった平成20年、地域内だけでなく、全国から生徒が集まる魅力ある学校つくりを目指し「隠岐
島前高等学校の魅力化と永遠の発展の会(三町村長・三町村議長・高校校長・三中学校長・PTA会長・OBOG会
会長等。事務局は島前高校)」を設立。この会のもと、ビジョンを策定する「ワーキンググループ(各島の中学校
教頭、保護者、町村、教育課長、卒業生などの10数名)」をつくり、中高の生徒・保護者・教員、地域住民、議
会などへのアンケート・ヒアリング・意見交換等を行って、「島前高校魅力化構想」を策定、平成21年に県知事、
県教育長に提言した。
その後、この「魅力化構想」実現のため「隠岐島前高等学校魅力化推進協議会(三町村の有志や高校教員等で構成)」
を設立し活動を行っている。高校魅力化プロジェクトでは「生徒一人一人の夢の実現」「地域の未来を作る人材の
育成」「持続可能な魅力ある学校づくりの推進」を目指して主に以下のような取り組みを行っている。地域に根ざ
した課題解決型学習を行う地域創造コースなどの「魅力的なカリキュラム編成」や、教員数の増加等の高校自体の
変革に加え、首都圏や関西圏などの島外からの生徒を受け入れる「島留学」、公立塾「隠岐國学習センター」をつ
くり、予備校や進学塾のない島で進学のための学習支援、地域内外のプロフェッショナルを講師に招いて行う「ゼ
ミ形式」のキャリア教育事業「夢ゼミ」を実施するなど、多角的な活動を行っている。プロジェクト開始後の平成
20年には3クラス88名(教職員数16名)だった生徒は平成25年度には140名(5クラス。島外からの生徒が
22名・教職員数35名)に。初年度は国公立大学や有名私立の進学が2名。2014年3月には13名(39人卒業)。
生徒の中には「Sターン」(東京→島→東京の大学・企業→島)をしたいという声もある。また、地域に興味を持っ
て「地域コーディネーター」になりたいという生徒も。

インタビュー:岩本悠氏(高校魅力化プロデューサー)「危機感とビジョンをみんなで共有することが大切」

危機感とビジョンをみんなで共有することが大切
岩本悠氏
高校魅力化プロデューサー
岩本氏が最初に行った学校のビジョン策定には、高校教員、中学校教員、行政、地域代表、生徒、保護者、行政
と多様な人たちが集まった。まずは生徒や保護者に向けて「どうしたら皆が行きたいと思う学校になるか」を問う
アンケートや話し合いなどを行った。
ビジョンを作る上で、岩本氏が意識したのは「三方よし」の精神。三方がそれなら協力できる、それならやりた
いと思うところを丁寧に探り、それぞれの想いや考えを「言語化」していった。学校側は学校存続のためには生徒
数の確保が重要であり、地域としても少子化が進む中、外から生徒を受け入れないと難しいという共通認識はあっ
た。けれども、保護者の中には外から来る子供は本土で「上手く行かなかった子」が来るのではないかという不安
の声があった。生徒たちの中には、同じような環境・価値観で育ってきた生徒ばかりではなく「新しい刺激」が欲
しいという声もあった。こうした各方面の「声」を総合的に判断し、皆で「こういう生徒が、このくらいの数」来
てくれれば良いという皆の合致点を丁寧に探っていった。結果、意欲の高い生徒が来ることが皆にとっての「三方
よし」であるということにまとまった。
また、今は地域課題解決のためには、地域だけを見ていては難しい時代だ。大きな視野を持ちながらも、地に足
をつけながら地域を変えていける若者を育てていこうというのが魅力化プロジェクトが目指すキャリア教育のテー
マの一つである。例えば、島の過疎化は仕事がないことが理由であれば、「仕事がないから帰れない」ではなく自
分たちが仕事を作るのだという「起業家精神」を育む教育を大切にしている。
授業の中でも、地域課題を解決する新しい仕事や、新しい観光プラン、3年間で100万円稼ぐビジネスプラン
を考えるなど、課題解決実践型授業を行っている。2年時には生徒全員が海外研修でシンガポールに行く。世界的
な都市型開発を進める島であるシンガポールと、「世界一のド田舎モデル」を目指す島である海士町という真逆の
環境の両方をみることで、自分たちの地域を広い視点から客観的にみる力を養うことを目指している。最近では、
中東のドバイに住む生徒が「島留学」に来るようにもなったり、生徒たちの卒業後の進路も、日本の大学に絞らな
いなど、ローカルで行うグローバルな人材育成教育「グローカル人材」の育成は広がりを見せている。島には大学
や専門学校がないため、生徒たちはいずれ島を出ることになる。けれども「出るのであれば思いっきり飛び出した
方が良い。勢い良く投げたブーメランは、途中で落ちることなくちゃんと帰ってくる」この人材育成を「ブーメラ
ン型人材育成」と語る。
全国の少子高齢化や地域の学校存続に悩む地域がそれを解決するためには幾つかのポイントがある。①危機感を
醸成する:岩本氏のように外から来た人だから気付くことができる「地域の課題」をあぶり出し、地域の人に「最
悪のストーリー」までもを隠さずに示し、危機感を共有する。②取り組みを推進する「母体」を作る:個人の想い
だけでは地域全体は動かない。そのプロジェクトを実現するために必要な「関係者」がちゃんと入っている「母体」
をつくり「個人の想いを超えたもの」としてやっていく必要がある。③「思いつき」ではなくしっかりと「ビジョ
ン」を描き、共有すること。④チームを作ること。ビジョンを実現化させていくためには、最低3人が志を共有
して組織や立場を超えて活動していける「チーム」をつくり、その輪を広げて行くことが大切。