客が殺到する直売所が地域農業を変える(山形県鶴岡市)株式会社産直あぐり|地域活性化100

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客が殺到する直売所が地域農業を変える
株式会社産直あぐり
山形県鶴岡市

山形県鶴岡市の地域の概要

鶴岡市は、山形県の庄内地方にある人口約 13 万人の市。平成 24 年に 1 市 4 町 1 村が合併をして県内人口第 2
位の都市となり、市面積は東北地方で最も広く、全国 7 位という広大な市となった。
鶴岡市がある庄内平野は米どころとして有名で庄内米が栽培されているが、産直あぐりがある櫛引地区(旧櫛引
町)は、近くを流れる一級河川の赤川が度々の氾濫を起こして作られた土地であることから、土壌の中には石や砂
利などが多く、稲作には向かない地域である。そのため多くの農家では米に加えて、ブドウ、なし、さくらんぼな
ど、水捌けが良い土地で育つ果物を生産していた。しかし、一軒あたりの出荷量が少ないために農協等への出荷が
出来ず、農家の収入には繋がりにくいという問題があった。

「産直あぐり」は山形県鶴岡市櫛引地区にあり、地域の農業振興を目的に、旧櫛引町と地域の農家の協力によって、
平成 9 年にオープンした民営の農産物直売所である。地域の農家が生産した、ぶどう、さくらんぼ、なしなどの
果物をはじめ、野菜、花、山菜、米、加工品を幅広く扱っている。他に地域の食材を活用したレストラン「食彩あ
ぐり」や、加工食品を製造する「加工あぐり」を併設している。各種のイベントも積極的に仕掛けるなど、地域の
交流の場としても重要な役割を持っている。平成 26 年時点で 89 件の農家が参加しており、年間 25 万人を超える
客が訪れ、売上高は 3 億 6 千万円を超える。人が殺到する直売所である。
直売所の周辺地域は米や野菜よりも果樹栽培に適した土地で、ぶどう栽培は 250 年前から行われてきた。
ぶどうだけでも数々の種類があり、多彩な果物が生産されていたが、それぞれが少量であるために市場では売れな
いのが実情であった。平成 3 年頃、農産物価格の低迷、米の生産調整による稲作収入の減少、農業従事者の減少
と高齢化という課題に対して、当時の町が地域の特徴を生かした農業振興を図ろうと「フルーツタウン構想」が策
定され、地域の農家の所得向上のための直売所計画が持ち上がった。しかし、当時は直売所という形態が現在ほど
一般的でなかったため、農家にとっても不安が先に立ち、参加農家は少なく 50 件にも満たなかったがコアメンバー
たちが地道に説明会等を行って説得した。当時は「失敗するだろう」と冷ややかな目で見ていた農家が多かったと
いう。
平成 9 年。町が施設を整備して、「直売施設運営管理組合」が設置準備と運営を行う官民恊働の「産直あぐり」がオー
プン。開設時の組合員は 75 名(多くが兼業農家)であった。農家が生産した果物や野菜を直接持ち込み、価格も
生産者が決める。産直あぐりは棚を貸す代わりに販売手数料 10%を徴収する仕組みになっている。周囲の予想に
反して開店当初から客足は順調で、その様子を見て農家が徐々に参加して、参加農家は 89 件にまで増加した。
生産物に対して客の反応がダイレクトに返ってくる直売所は、生産者の意識にも大きな変化を与えた。消費者が
喜ぶ作物を研究するようになり、組合員たちが新品種を開発して次々に売り出すなど、積極的に農業に取り組む生
産者が増えている。特に品質の管理には力を入れており、平成 17 年からは出品するすべての野菜にはトレーサビ
リティーを行うことを義務付け、すべての商品に二次元コードが添付されている。品質の良いものを責任を持って
消費者に届けることを徹底している。

取り組みの概要:客が殺到する直売所が地域農業を変える

他にも、組合員が出荷した農産物の販売状況が 1 時間ごと
にメールで生産者の携帯電話に送られ、それを見て補充するこ
とも可能であり、農家の機会損失と品切れを防止している。そ
のほか、役員会報告、月別売上明細、クレームとそれに対する
対応などを毎月配信するなどしている。こうした情報がスムー
ズに行き交う環境も直売所の成功の理由とも言える。直売所の
人気はすさまじく、平成 9 年には売上 1 億円を突破、翌 10 年
には 1 億 9,600 万円までになった。組合員一人当たりの出荷
額は 250 万円を超える。
平成 11 年。女性の会から「冬でも販売できる加工品を作り
たい」という声が上がり、地域産品を使った加工品工場「加工
あぐり」が併設された。農家の女性たちが中心となって、独自
商品の開発等を行い、餅、ジュース、果物素材の菓子、うどん・
そば、団子、スナック菓子、せんべい、まんじゅう、ジャムな
どが作られている。
さらに、平成 13 年には直売所の横にレストラン「食彩あぐ
り」をオープン。農家の女性たちが地元野菜を使った田舎料理
を提供しているバイキング形式レストランで、地元住民に人気
となっている。
直売所、加工場、レストランと事業が多角化し、平成 13 年
の売上で 3 億円を突破するなど、事業規模が大きくなったため、
平成 20 年に参加農家の出資による「株式会社」とした。
株式会社産直あぐりの組織は役員に加え、地域住民を雇用し
ており、13 名の従業員と数名のパートが働いている。特徴的
なのは株式会社でありながらも「組合」当時の良さを残した参
加農家による当番制の手伝いによって成り立っていることであ
る。直売所に農産物を入れている組合員には月 1 回の当番が
あり、直売のレジ、食堂厨房、加工施設での補助作業のいずれ
かを無償で担当することがルールになっている。また、ほぼ毎
月開催されるイベント時には、準備から駐車場での車の誘導ま
で、すべてを組合員で行っている。
直売所の成功は、地域にも多くの影響を与えた。例えば、元々
は地域の農家は殆どが兼業であったが直売所という販路ができ
たことで、兼業農家として成り立つようになった農家もある。
最も大きい効果は、産直あぐりによって「良い作物を作れば
確実に売れる」という仕組みが出来たことで、数人の若者が大
学等を卒業してから実家の農家を継ぐようになったことだ。
現在のあぐりには女性の会、企画部、果樹部会等に加えて、
新たに「青年部」が設立されており、20 代から 40 代の若い
農家たちが、農業技術で切磋琢磨をしたり、イベントを企画運
営したりと活発に活動を行っている。「産直あぐり」の最も大
きな役割は農産物の販売と地域農業の振興であるが、こうした
人が集う場が地域にあることによって、地域住民の交流を生み、
農家に限らず地域全体を底上げにつながっている。

インタビュー:澤川 宏一 氏(代表取締役社長/株式会社産直あぐり)

株式会社産直あぐり
代表取締役社長
澤川 宏一 氏