地域資源の再発見「米米惣門ツアー」(熊本県山鹿市)下町惣門会/山鹿市観光協会|地域活性化100

地域活性化の先進的取組事例>地域に人を呼ぶ>地域資源を再発見し活用する
地域資源の再発見「米米惣門ツアー」
下町惣門会/山鹿市観光協会
熊本県山鹿市

熊本県山鹿市の地域の概要

山鹿市は熊本市から北へ 26km の内陸の町。一級河川の菊池川流域に田園地帯が広がっている。1,000 年を超
える歴史を持つ山鹿温泉郷があり、市内には 20 軒あまりの旅館などが立ち並び「山鹿温泉郷」を形成している温
泉の町でもある。街の歴史は古く、豊前街道が通っていたために江戸時代には参勤交代の宿場町として栄えた。ま
た、菊池川流域は古くから米の産地であり、菊池川の水運を利用して運搬される米の集積地として賑わい、米に関
する商売も盛んに行われ、豊かな商家が多い地域であった。明治期には商家の旦那衆の巨額の出資によって芝居小
屋「八千代座」が建設された。この「八千代座」は現在、国指定重要文化財になっており、その雰囲気に魅力を感
じた人気歌舞伎役者による公演が毎年のように行われる。
市内では年間を通して多くの祭りやイベントが開催されており、特に夏に行われる「山鹿灯籠まつり」は来場者
30 万人を超える。温泉、歴史的建造物、祭りなど数多くの観光資源を持つ町であり、ここ数年の市全体の年間観
光入込客数は 130 万人程度で推移している。「米米惣門ツアー」が行なわれている下町地区は街道と菊池川が交わ
る地区で、古から物流拠点として栄えた地域である。現在でも当時の面影を残す商家が立ち並び、風情ある街並み
が色濃く残っている。

取り組みの概要:地域資源の再発見「米米惣門ツアー」

旧豊前街道沿いの古い町並みが残る下町地区では、平成 12 年から「米米惣門ツアー」という地域住民主導によ
る地域資源を巧みに活用した観光ツアーが行われている。これは地区の商店主たちの集まりである「下町惣門会」
が企画・運営を行い、受付や PR 等で山鹿温泉観光協会が協力している。
この地域には、ツアー名にもなっており、街のシンボルである 「惣門(治安維持のための番所跡で、現存してお
らず現在のものは近年になって再建されたもの)」 や、江戸時代の米の商いによる商家の繁栄を今に伝える、元米
問屋の蔵、日本酒の醸造元、麹屋、せんべい工房などの店舗が 200m にわたって立ち並ぶ。
さらに、光専寺という寺には、江戸時代に地域一の豪商であった米問屋・宗方屋利助が京都から買い求めた「鉄眼
版一切経」という貴重な経典(3 千冊)を収める経蔵が残っている。
このツアーは、こうした「米」に関係する店舗や歴史的建造物等を、地域の商店主たちによる創意工夫に富ん
だ案内とともに、約 1 時間をかけて巡るものである。途中削除ツアーでは、酒蔵では史料館の見学やお酒の試飲、
麹屋では昔ながらの商家を見学後甘酒の試飲、せんべい工房ではせんべい焼きの体験が出来、お寺では米問屋の主
人が経典を寄贈したエピソードなど、米尽くしで楽しむことができる。多い時で 1 日に数回のツアーが行われて
いる。
このツアーには、観光スポットを巡るだけではない様々な工夫がなされている。最大の特徴はツアーを案内する
「案内人」である。案内人を務めるのは見学コースの店主たち 6 〜 7 人が曜日ごとの担当制になっている。特徴的
なのは一人の案内人がコースのすべてを案内するではなく、麹屋に行けば麹屋の店主が、酒蔵では酒蔵の店主が、
と巡ってくる参加者達を各店舗の店主たちがリレー形式で受け入れていく点である。案内のやり方にはマニュアル
や原稿等はなく、各店主たちがそれぞれに工夫した案内を展開する点も人気の理由だ。こうすることで、各店舗の
個性を生かした案内が可能になり、他のツアーと差別化がなされている。ツアー終了後には必ずミーティングを行
うようにしており、客の反応や気づいた点などを意見交換してさらなる案内技術の向上に努めている。
また、ツアーでは麹屋、酒蔵、せんべい工房などの今も営業して
いる店舗を巡るため、参加者に買い物をしてもらうことも目的であ
るが、各商店主が営業をすることで「買い物ツアー」となってしま
い、印象を悪くする可能性がある。このため、各店舗が自店舗の商
品だけを PR するのではなく、ツアー参加店舗の中でその時期に最
も良いものを紹介して販売につなげるという、町全体で協力する体
制ができている。各店舗ではそれぞれに工夫を凝らしたツアー客用
のお土産用商品も開発しており、売上も増加している。
こうした地域の歴史という地域資源を活用した取り組みが行われ
ている背景には、かつての市街地再開発による失敗への反省がある。
現在は往年の姿に再建され、街のシンボルとなっている「さくら湯」
は、江戸時代に熊本藩主の休憩所として使われた「御茶屋」に端を
発し、明治時代に公共浴場として利用されるようになったのちも、
住民の手による改修を重ねながら大切に利用されてきた。しかし、
昭和 40 年代に行われた市街地の大規模再開発によって「さくら湯」
は解体され、大規模な再開発ビルが建設された。これによって街の
景観が壊され、兼ねてからの歴史的建造物が立ち並ぶ風情が失われ、
中心市街地の空洞化が起きた。芝居小屋の八千代座についても解体
の議論が行われたが、市民の熱い保存運動によって守られた。
街のシンボルが失われて停滞感が漂っていた平成 12 年、歴史的
建造物が残る惣門地区でテレビドラマの撮影が行われることにな
り、観光客増加を見越した地域の商店主たちが地域を紹介する体制
をつくろうと集まったことが「米米惣門ツアー」誕生のきっかけで
ある。毎週定期的に会議で、メンバーがそれぞれに地域の歴史を徹
底的に研究し、発表し合う中で、かつて「米」によって反映した地
域の姿が浮かび上がってきた。
地域の歴史研究を進めるにしたがって、それまでは気にもかけな
かった、建物から石像に至るまで、それぞれに「米」にまつわるス
トーリーがあることがわかり、歴史に埋もれてしまっていた「地域
資源」の姿が浮き上がってきた。そうして再発見した地域資源を「米」
に関わるストーリーでつなぎ、案内方法やコースなどを工夫するこ
とで生まれたのが「米米惣門ツアー」である。
このツアーは、地域にあるものをもう一度丁寧に見つめ直してみ
ることで、それまで気づかなかった地域資源の発掘に成功し、さら
には住民たちの連携による創意工夫を加えたことで、眠っていた地
域資源を「観光資源」にまで昇華することができるという一つの事
例である。現在、年間 5,000 人余りが参加するまでになり地域に
活気をもたらしている。平成 24 年には「さくら湯」がかつての姿
で再建され、再び地域のシンボルとなっている。

インタビュー:井口 圭祐 氏(初代会長/会長/下町惣門会/山鹿市観光協会)

下町惣門会/山鹿市観光協会
初代会長/会長
井口 圭祐 氏