ここにしかない「オンリーワン」の観光産業を(北海道根室市)落石ネイチャークルーズ協議会|地域活性化100

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ここにしかない「オンリーワン」の観光産業を
落石ネイチャークルーズ協議会
北海道根室市

北海道根室市の地域の概要

根室市は北海道の最東端にある。北海道の中では雪は少なく、過去最深積雪も 115cm であり、1 月の平均最低気
温は -7 度程度。古く漁業で盛んでかつては北洋におけるサケやマスの漁業基地として栄え、近年は日本でも有数
のサンマ産地として知られる。落石漁港がある落石地区は根室半島の南側に位置した太平洋に面した自然の地形を
利用した美しい漁協である。200 世帯ほどの集落で、そのほとんどが漁業を営んでいる。主な漁業はさんま漁、さ
けます漁、たこ漁、さけ定置網漁、こんぶ漁業である。

取り組みの概要:ここにしかない「オンリーワン」の観光産業を

落石ネイチャークルーズ協議会の発端は、平成 17 年に北海道開発局から認定された「落石地区マリンビジョン協議会」
にある。落石地区ではこのマリンビジョン協議会の活動として、平成 19 年度から落石の特産物 PR を目的とし「おちいし
味祭り」を開催。ネイチャークルーズも祭りの催しの一つとして行った「遊覧航行」であった。この船の乗船客の一人であ
り、バードウォッチングを趣味としていた新谷氏(当時 ANA 総合研究所)が国内で数少ない「エトピリカ」の繁殖地であ
るこの海の可能性に着目し、観光資源としての可能性を提言したことがきっかけになった。
これを受けた漁協は、平成 21 年から 1 年間をかけて研究者等のもとに野鳥の調査と検討を 12 回行い、エトピリカの他
にも、絶滅危惧種を含む様々な野鳥を観察できることがわかった。
その後、平成 22 年に国土交通省の運行許可を得て活動を開始。船頭とガイドを行う「漁船グループ」は落石漁協組合員
を対象に募集が行われ、集まった 7 件の漁業者に対し、運行速度やルートを確認の試験運行を行った。他にも、鳥に悪影
響を与えないための自主規制等を設けた。
同年「落石ネイチャークルーズ協議会」を設立。「漁船グループ」「受入グループ」「広報グループ」の3グループと事務
局で構成されている。「漁船グループ」では漁業者がクルーズ運行を担当。女性部員の有志からなる「受入グループ」は地
場産品の加工・販売を行う。「海鮮工房霧娘(きりっこ)」の 6 名の女性が主なメンバーでネイチャークルーズの客に地元の
食材を使ったお弁当を販売している。予約・販売・乗船受付、運行予定管理には緊急雇用制度を利用した 2 名の職員を新
規雇用している。「広報グループ」は根室市商工観光課や観光協会が担当し WEB の管理や、様々な PR を行っている。事務
局は協議会の事務と経理を担当する。料金は 7,000 円で一部を「落石うみどり基金」として積み立てて海鳥の調査・保護活
動を助成に充てており、既に 30 万円以上を寄付している。乗客数は初年度から 576 名で、その後も年々客数を伸ばしてお
り 5 年目を迎え 1,000 名弱の乗客数に至っている。うち、道外からの客が約 4 割を超えており、近年では海外からの客も多い。
これまでに月額 60 万円を稼いだメンバーもおり漁業者の収入増加にもつながっている。今後は若年層の雇用創出も期待さ
れる。

インタビュー:新谷 耕司 氏(根室市観光協会観光振興アドバイザー・ネイチャークルーズガイド)「オンリーワンの観光だから強い」

オンリーワンの観光だから強い
新谷 耕司 氏
根室市観光協会観光振興アドバイザー・ネイチャークルーズガイド
観光資源における「ナンバーワン」の価値は不動のものでなく、ナンバー 2 に負けることもあり、差別化が図
れないこともある。地域だけにしかなく、客が魅力を感じる「オンリーワン」を見つけることが出来れば強い。根
室は観光王国である北海道において、決して観光において恵まれているとは言えない。空港からも遠く、温泉もな
い。けれども、エトピリカをはじめとする「オンリーワン」があるからこそ、お客様は時間とお金をかけてでも根
室の落石に来る。オンリーワンの素材を追求することの大切さを常に地域に訴えている。
また、地域の「身の丈」に合った成長を続けていくことも大切である。初年度は 500 名程であった客数は年々
増加し、近年では 1000 名弱にまでなった。今後の展望は客数については「基本的に横ばいか、増加しても 105%
くらい」を目指しているという。その背景には、根室市周辺の宿泊事情がある。根室市には大量の観光客を受け入
れる程の宿泊施設数はないが、観光客が増えると宿泊施設を建設しなければならなくなる。けれどもホテル建設を
すれば、どうなるかは過去の各地の例を見れば明らかである。現在も、地元の民宿や旅館などには空室がある状態
であり、これらの空室を数年間で吸収していくようなゆるやかな伸び率が望ましいという。その地域に合った身の
丈に合った成長が大切。
落石でのネイチャークルーズ実行にあたって、漁業等の第一次産業と観光業等の第三次産業を融合させることの
難しさを感じた。しかし、それこそが重要である。多くの地域にとって第一次産業はすべてのベースにあるもので、
そこに観光を合わせれば上手くいく。都会の人が観光に求めているもの(癒しなど)は地域の第一次産業の中に眠っ
ていることが多い。観光業という第三次産業の発想だけで観光を作るのではなく、第一次産業の人と一緒になって
やることで消費者が求めているものをつくることができる。観光をやる上で大切にすべきなのは「地域のマジョリ
ティーの人口が何をしているか」である。根室では漁業関係者と一緒にやらなければならない。マジョリティーに
受け入れられないものは結局、人も、お金も、モノもついてこない。ネイチャークルーズも 5 年目を迎え、7 件の
漁業者のうち 2 件では息子も船頭を務めるようになっている。「2 代目」は鳥の勉強をしたり、双眼鏡を買ったり
と積極的に事業に取り組んでおり、良い流れが生まれている。「我々はそれに甘えてはいけない。漁師さんはあく
までも手伝ってくれているだけで、観光を一生の仕事にしようとはしていない。漁が最優先でその合間に手伝って
もらう。お客様が最優先ではなく漁師さん最優先でやっているからいい。」 今までの観光の常識を作ってきたのは、
大きな街や大資本だった。けれども同じことを地方でやるとなると必ず無理が生じる。地方の観光は「自然体」で
良いと思う。