「フットパス」で地域のありのままの風景を資源に変える(北海道根室市)酪農家集団AB-MOBIT|地域活性化100

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「フットパス」で地域のありのままの風景を資源に変える
酪 農 家 集 団 AB-MOBIT
北海道根室市

北海道根室市の地域の概要

根室市は北海道の最東端にある。北海道の中では雪は少なく、過去最深積雪も 115cm であり、1 月の平均最低
気温は -7 度程度。明治以降、根室市は地域の中心都市であり、人口は昭和 30 年には 45,000 人を超えていたが、
平成 22 年には約 29,000 人にまで減少している。古くから漁業で盛んで、かつては北洋におけるサケやマスの漁
業基地として栄えたが、近年は北洋サケ・マス、サンマ、スケトウダラ等の漁船漁業、定置網漁業、コンブ、ウニ
など。道内漁業生産の約 2 割弱程度を占める一大生産地域である。
さらに、根室は世界的な大酪農地帯でもある。夏でも夏日にもならない冷涼な気候のもと、明治期から
豆や馬鈴薯などの畑作と軍馬を始めとした馬産が行われたが衰退。昭和 29 年の酪農振興法によって集約酪農地域
に指定されたことを機に「根釧パイロットファーム」への入植が始まり、昭和 39 年までに約 360 戸が入植して開
墾地は約 5,000ha までになった。さらに、昭和 48 年から 58 年にかけては根室市周辺で新農村建設事業が開始さ
れて 200 戸以上が入植。新たに約 15,000ha の農地が造成された。こうした先人たちの努力によって今日では大
型酪農地帯となっている。

取り組みの概要:「フットパス」で地域のありのままの風景を資源に変える

北海道根室市では酪農家集団「AB-MOBIT( エービー・モビット )」
による「フットパス」事業が行われている。フットパスはイギリスを
発祥とし、森林や田園地帯、古い街並みなど、地域に残っているあり
のままの風景を楽しみながら歩くこと (foot) ができる小径 (Path) の
ことである。本場のイギリスではフットパスが各地にある。日本にお
いても日本フットパス協会が組織されており、最初に始めた北海道の
ほか、最近では東京都町田市の多摩丘陵地区でも行われている。通常
のハイキング等と違い、私有地等を通過することも特徴である。
AB-MOBIT では日本では他地域に先駆けて、平成 13 年頃からこ
のフットパスを取り入れ、各農場の私有地である牧草地を横断できる
フットパスを整えてきた。本業の酪農を営みながら、牧場周辺の景観
を生かしたコースを考えた。ありのままの景観を生かすことが重要な
ため、派手さはないものの、じわじわと観光資源として育ちつつあり、
牧場でも副業として飲食や宿泊を開設して収益源に育てていく動きが
あるほか、根室市内の街にも効果が生まれつつある。利用者数は平成
15 年の開始から延べで約 20,000 人ほどになる。
この活動を行っている「AB-MOBIT」は厚床から別当賀(べっとが)
に点在する 5 軒の酪農家のグループである。名前には地域名である厚
床、別当賀(べっとが)の頭文字に、酪農家 5 人の頭文字 MOBIT を
つけた。グループ設立の背景には、先人たちの努力によって一大酪農
地帯となった根室酪農地帯において、改めて地域の自然や人などの酪
農を取り巻く環境を見直し、新しい酪農社会のあり方を模索したいと
いう想いがある。きっかけとなったのは、酪農業界を襲った口
蹄疫の問題や、大手乳業会社による食中毒事件によって、酪農
の未来に危機感を抱いたことがきっかけだった。グループの理
念には、酪農の未来に向けた熱い想いが込められている。
フットパスの実現に向けた活動が始まったのは平成 13 年。
約 2 年をかけて、メンバーたちが何度も牧場や周辺地域を歩
き回って、地域の研究を行い、ルートを設定し、草刈りや標識
の設置等の整備を行った。
平成 15 年「厚床フットパス」が始まった。厚床フットパス
は延長 10.5km で、JR 厚床駅と伊藤牧場などの牧場地帯をめ
ぐる。青々とした牧草地帯の他にも、今は廃線となった旧国鉄・
標津線跡なども歩くことができる。途中にある広大な牧草地の
丘を「もの思いにふける丘」と名付けており、参加者からも人
気のスポットになっている。地域住民にとっては見慣れた景色
が、フットパスに参加した都市住民らにとっては魅力的な場所
となっている。
時期を同じくして、農道や、川沿いを通り、サイクリング
も可能な「初田牛パス(13.5km)」と、野鳥の保護区を抜け
て、海辺に広がる牧草地を歩く「別当賀パス(18.5km)」も
始まった。こうした魅力的なコース設定の裏には、平成 15 年
〜 17 年の 3 年間に 3 回にわたって行われた「根室フットパス
ワークショップ」があった。AB-MOBIT が開発したコースを、
地域住民や、全国から集まった学生、専門家、行政関係者に歩
いてもらい、様々な立場や視点から地域の持っている可能性を
探った。この時の外部からの意見が後の活動に大きく影響を与
えている。
フットパスの取り組みがきっかけとなって、人を呼び込むた
めの様々な活動が始まった。例えば、牧場内には農産物加工の
体験ができる施設や、地元食材を提供する飲食店、牧場で乳搾
りなどの酪農体験などもできるようにした。さらに、キャンプ
場も開設された。
また、近年ではフットパスのことを知った根室市の落石漁業
協同組合からの依頼を受けて「海辺のフットパス ( 落石シーサ
イドウェイ・浜松パス )」を整備。フットパス・コンサルティ
ングの第 1 号案件となった。
フットパス事業はありのままの風景の中を歩くことを前提と
しているため、事業化は難しい。現在、フットパス事業の収入
としては、各コースの通行証を兼ねた「マップ」を 200 円で
販売しているが、大きな収入源にはなっていない。それでも、
ゆっくりとであるが、フットパスによって地域の魅力が発信さ
れていることは確かであり周辺への効果がじわじわと出てい
る。現在は年間 2,500 人ほどの利用がある。何より、都会の
消費者が農業や酪農のあり方について考える機会につながる。
長い時間がかかるかもしれないが、フットパスをはじめとした
取り組みが、将来の酪農や農業の姿を変えるきっかけになるか
もしれない。

インタビュー:AB-MOBIT(伊藤 泰通 氏/)

AB-MOBIT
伊藤 泰通 氏