新しい地域資源を創造する「田んぼアート」による村づくり(青森県田舎館村)田舎館村|地域活性化100

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新しい地域資源を創造する「田んぼアート」による村づくり
田舎館村
青森県田舎館村

青森県田舎館村の地域の概要

青森県南津軽郡田舎館村は、津軽平野の南部に位置する人口約8,200人の村である。昭和30年代のピーク時に
は人口10,000人を超えていたが、その後は徐々に人口の減少と少子高齢化が進行している。農業以外に大きな産
業はなく、古くから稲作を中心とした第1次産業が盛んだ。地域の中核都市である弘前市(人口約18万人)に隣
接しており、距離も約10km程度と近いため、弘前市内の企業や学校に通勤・通学をする住民も多い。村内各地
では弥生時代の水田跡などの遺跡が発掘されているが、目立った観光資源等はなく同村を目的とした観光客はほと
んどいなかったが、平成5年、村おこしを目的に始めた「田んぼアート」が注目されるようになり、これまでに
22回を開催し、昨年は年間25万人を超える観光客が訪れる一大イベントになっている。

取り組みの概要:新しい地域資源を創造する「田んぼアート」による村づくり

田舎館村では平成5年から、古代米など数種類の稲を、図柄に合わせて植えることで田んぼに巨大な絵を描く「田
んぼアート」を行っている。使用される米は古代米(黄稲、紫稲等)と、この地方で栽培されている「つがるロマ
ン」である。村役場、道の駅ともに展望室が開放され、上から作品を眺めることができる。海外メディアにも取り
上げられるなどしており、外国人観光客も多い。
この取り組みは、村・農協・商工会の3団体の各長が委員になっている「田舎館村むらおこし推進協議会」が
主導して行っており、役場職員、農協職員、商工会職員が協力して企画運営を行っている。現在では、田んぼアー
トを農業体験プログラムの一つとして、田植えや稲刈りの時には、多くの村民が参加するだけでなく、村外からの
参加者も多く参加しており、村の一大イベントとなっている。当初は役場裏の約25aの田んぼを利用して始まっ
たが、その人気に対応するため、現在は役場裏の約1.5haと道の駅の約1haの2箇所の会場で異なる絵柄が作ら
れている。
田んぼアートのきっかけとなったのは、村内にあった弥生時代の水田跡である。弥生時代に作られていたと思わ
れる「古代米」の稲には黒や赤などの色があり、平成に入ってから、村内の田んぼで古代米を利用して文字や簡単
な図柄を描いた田んぼを作るようになった。
そもそも、この頃の活動は、田舎館村産の米をアピールするために都市部の取引先や関係者向けの稲作体験とし
て始めたものであり、観光目的ではなかったため、当初の9年間はずっと同じ図柄で行われていたという。
こうして始まった田んぼアートは、平成15年にはレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」を描き、その後も
「風神雷神図屏風(平成18年)」「富嶽三十六景神奈川沖浪裏と凱風快晴(平成19年)」「竹取物語(平成22年)」
と毎年違う図柄に挑戦し、かつきれいな絵に見えるように改善を重ねていったことで、その高いクオリティが評判
となって年々来場者は増加した。さらに、NHKの番組で村人1,000人が協力して田んぼアートの田植えを行う企
画を行ったことが注目をされ、来場者増加にさらに拍車をかけた。
こうした高レベルな「田んぼアート」は村人の協力によって成り立っている。まず、協議会で決定された図案か
ら、実際に田んぼアートに使用する原画を地元の美術教諭が作成し、この図案から実際に稲を植えるための細かい
数値を計算した設計図を元設計事務所勤務の農家の方が作成する。その他、使用する苗の育成や刈り取った稲の脱
穀等の作業、複雑な部分の田植え、稲を育てるための農業技術指導を行っているのは地元の農家である。まさに毎
年が村の総力を挙げてのプロジェクトになっている。
当初は、ノウハウもないため苦労したが、年数を重ねるごと
に技術は向上している。今では各地で田んぼアートが行われる
ようになったが、田舎館村は、「元祖」田んぼアートの村として、
他地域との差別化を図っている。例えば、新しい色を追求した
新品種の利用や、穂の色が変化する稲を利用することで時期に
よって図柄が変わる仕組みなどで、常に新しい技術の研究と開
発を続けている。田舎館村の「田んぼアート」は国際的なアー
トフェスティバルで金賞を獲得するなど、海外での評価も高い。
近年では、一般的な絵画作品に加え、大手プロダクション会
社との提携によるアニメキャラクター等の田んぼアートも行っ
ており好評だ。あまりの人気に、平成24年からは道の駅に第
二会場を新設し、その近くには弘南鉄道弘南線「田んぼアート
駅」ができている。毎年多くの人が訪れ、平成25年度には来
場者数は約25万人を超えるまでになった。田んぼアートによっ
て僅かであるが村の雇用も生まれた。8人を臨時職員として雇
い、最盛期には人不足となるため、シルバー人材センターを活
用している。
一方で課題も生まれている。来場者が多くなりすぎたために、
ピークシーズンには長い待ち時間が発生しており、整理券を配
布するなどして対応に追われている。また、これを逆手にとっ
て待ち時間を利用して街歩きをしてもらうことで、田んぼアー
トの恩恵を街全体に広げようとする取り組みも始まっている。
もう一つは村には田んぼアート以外の観光資源や宿泊施設が
ないため、多くの観光客が来ても地域にお金が落ちるわけでは
なく、経済効果が生まれないことである。かつては、田んぼアー
トそのものに企業広告を入れることで、収入に繋げようとした
が一部村民からの反対もあって頓挫してしまう。平成18年度
からは観覧者に募金協力をお願いしてきており、平成24年度
からは田んぼアートを見るための展望台の入場料を徴収してい
るが、経済効果を地元商工業者などに還元するように、村や商
工会が中心となって、関連グッズや地域の特産品を活用した「お
土産」の開発を行うなどの取り組みを行っている。
田んぼアートの成功は、村民の村に対する意識を大きく変え
た。以前は、都会に出て出身地を紹介する際に「いなかだてむ
ら」という、まさに「田舎」を連想させる村名を恥ずかしく感
じていた村人も少なからずいたそうだが、田んぼアートで有名
になった現在では「田んぼアートの田舎館村」と胸を張って紹
介できるようになったという。この田んぼアートの事例は、田
舎館村だからできたことではない。目立った資源がない地域に
おいても、住民のアイデアとそれを実現する地域全体を巻き込
んだ取り組みを行うことで、新しい資源を創り出すことができ
ることを教えてくれる事例である。

インタビュー:浅利高年氏(企画観光課商工観光係長/田舎館村)

田舎館村
企画観光課商工観光係長
浅利高年氏