「自然と里山の暮らし」を活用した農家民宿(石川県能登町)春蘭の里実行委員会|地域活性化100

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「自然と里山の暮らし」を活用した農家民宿
春蘭の里実行委員会
石川県能登町

石川県能登町の地域の概要

能登町は、町域の約8割をブナ林などの自然林からなる丘陵地が占め、富山湾に面した海岸線も有する、豊か
な自然環境に恵まれた町である。その一部は能登半島国定公園にも指定されている。平成17年に2町1村が合併
して能登町となった。昭和45年当時の人口は約33,000人(現能登町に相当する地域)だったが、平成22年に
は約19,500人にまで減少。海岸部、山間部の川沿いに約200の集落があるが、多くで高齢化が進行。平成17年
に町内を通る唯一の鉄道であった「のと鉄道能登線」が廃線となり、公共交通はバスのみとなっているが、平成
15年には能登空港が開港し、平成27年には開通する北陸新幹線にも期待が高まっている。平成23年、国連食糧
農業機関の「世界農業遺産国際フォーラム」において、「能登の里山里海」が、新潟県佐渡市「トキと共生する佐
渡の里山」とともに、日本初の「世界農業遺産」に認定された。これは、持続的な生物資源の利用保全の継続と、
農林産物の生産が地域主体によって行われてきたことと、それによって育まれた「多様な生物資源」「里山景観」「伝
統的な技術」「文化」と「里山里海の利用保全の取組や環境教育」等が高く評価されたものである。

取り組みの概要:「自然と里山の暮らし」を活用した農家民宿

「春蘭の里実行委員会」(以下「春蘭の里」)は、平成8年に石川県能登町内で農家を営む7人の有志が立ち上げ
た。当時、急激な高齢化が進行しており、このまま何もしなければ集落の維持が困難になるという危機感を共有し
ていた。そうした中で、若者が帰ってくるためには、地域内で稼ぐことができる生業が必要であると考え、農家1
軒あたり月40万円の副収入を得られる仕組みをつくることを目指して活動を始めた。
当初、野菜や山菜などの農産物を活用した商品を開発し、加工・販売したが、売れ行きは芳しくなかった。平成
9年には農家民宿を開始。しかし、交通の便が悪い地域に人を呼び込むのは困難であった。大きな転機となったの
が、能登空港が開港した平成15年、19市町村と金沢市の一部が「石川グリーンツーリズム促進特区」となり、農
家民宿に対する規制が緩和されたことによって、新たに4軒の民宿が開業した。
能登地域には、「民宿」をするのに適した広い伝統的家屋が多く残っている。春蘭の里に参加している農家民宿
では、1日1組だけを受け入れ、食事のお膳には地元の伝統工芸品である輪島塗を使う、食材は地元産(春夏は山菜、
秋はキノコ、川魚のヤマメを囲炉裏で焼くなど)を使う、化学調味料を使わない等、地域資源の魅力を客に伝える
ための細かい決まりが定められている。また、里山の環境を活かした農業体験、川遊び、川魚のつかみどり、キノ
コ狩りなど、地域の人と交流をしながら里山生活を体験できる豊富なメニューが用意されている。
民宿ごとにもてなしの形は異なるものの、常に参加民宿の全てで理念を共有していることから平均して高い品質
のサービスを提供し、春蘭の里の民宿は1泊2食付で8,500円〜10,000円と民宿としては割高であるが、それ
に見合うサービスを提供することとともに、農家がきちんと稼げる仕組みを作りたいという想いがある。この価格
設定のおかげで農家も無理なく経営することが可能になり、また、さらなる新規加入農家を増やすことにつながっ
た。中には民宿をするために2,000万円をかけて自宅を回収した農家もある。また、人的な面での受入体制にも
工夫がされており、各民宿で人手が不足した時には、他の民宿から手伝いに来てもらう仕組みが作られている。こ
うした手伝いに出た場合の報酬は時給1,000円と決まっており、大人数の客に対しても協力して対応する仕組み
が確立している。
個人旅行だけでなく、修学旅行等の教育旅行を受け入れるた
めには一度に200名程度を受け入れるだけのキャパシティー
が必要になるが、平成18年には、町が国と県の補助を受けて、
閉校した小学校を改装した全10部屋を有する交流宿泊所「こ
ぶし」が完成。この施設の運営は、宮地小学校区の4集落が
参加している「NPO法人コブシ」が行っており、町からの指
定管理料は払われていないため、地域住民に各部屋の「オー
ナー」になってもらい、宿泊料金がオーナーに入る代わりに、
部屋の管理をしてもらい、月額17,000円をNPOに支払うと
いう仕組みで運営されている。その後も、農家民宿に参加する
農家も順調に増加、平成19年に10軒、平成20年には15軒
の農家民宿が開業し、現在は12集落47軒の農家民宿があり、
教育旅行の受入も可能な体制が整った。近年は国内外からの教
育旅行客が増加している。
春蘭の里では、地域資源である里山の環境整備にも力を入れ
ている。かつては林業で栄えていたが、林業の衰退によって
山林の荒廃が進み、里山の環境は危機的な状況になっていた。
こうした山で採れるキノコや山菜は、農家民宿の重要名食材
でもあることから、平成9年に地元の有志5名で山を購入し、
32haの山を「キノコ山」として整備する活動を行っている。
近年では、これらの活動を体験プログラムとして民宿の宿泊者
に提供もしている。
こうした取り組みが評価され、平成22年、名古屋市で開
催された「COP10(生物多様性条約締約国が集まり国際的
な枠組みを決める国際会議)の際には、世界的に注目される
「SATOYAMA」の代表として注目され、春蘭の里に18カ国か
らの視察団が訪れ、その「もてなし」に対して高い評価を受けた。
春蘭の里の取り組みは、地域に多くの影響をもたらした。実
行委員会では数名の専属職員を雇用しており、宿泊客の調整、
教育旅行等における体験プログラムの企画・運営等を行ってい
る。主な収入源は宿泊料金の5%の事務手数料であるが、人件
費の全てを賄うまでにはなっていない。教育旅行の受入等の事
業を促進することで独立採算運営ができる実行委員会を組織す
ることを目指している。
現在、農家民宿は12集落、50軒弱にまで拡大し、平成25
年の宿泊者数は約8,500人にもなった。民宿の多くは里山に
点在しているが、能登地域の魅力である「里山・里海」の環境
を活かすために、新たに海辺の古民家を改装した宿泊施設の整
備も進めている。
春蘭の里では活動の開始当初から一貫して「豊かな自然環境
と里山の暮らし」という「地域資源」を、ストレートかつ高い
品質で提供することにこだわり続けた。結果、徐々に多くの人
からその価値が理解されるようになり現在の成功につながって
いる。

インタビュー:多田喜一郎氏(会長/春蘭の里実行委員会)

春蘭の里実行委員会
会長
多田喜一郎氏